相続の選択肢|相続と遺産分割 10

相続の選択肢|相続と遺産分割 10

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相続するかどうかの3つの選択肢

相続が発生した場合、相続人は、不動産、現金、預金などのようなプラスの財産(積極財産)ばかりではなく、借金、家賃、売買代金などのようなマイナスの財産(消極財産)もあわせて相続しなければなりません。これを包括承継といいます。

これについて民法では相続人に対して、

  1. 相続財産(被相続人の財産)を相続するのかどうか
  2. どの程度の相続財産を相続するのか

を選択することを認めています。

ここで、相続人の選択肢としては①単純承認、②限定承認、③相続放棄の3種類があります。

単純承認は積極財産も消極財産も全て相続する方法である

消極財産の方が多い場合は、相続人が自分の財産を用いて弁済(お金を支払ったり、物を引き渡したりすること)する必要が生じます。原則として、相続人が単純承認をする意思表示によって単純承認が成立します。

法定単純承認に注意する

相続人が一定の行為をすることによって、単純承認をしたのと同じ効果が生じる場合があります。これを法定単純承認といいます。法定単純承認が生じる「一定の行為」として、主に以下の3つの行為が挙げられます。

1.相続財産の全部あるいは一部の処分行為

相続人が相続財産を処分した場合は、相続財産が自分の財産であることを認めたと判断できるからです。相続財産の処分にあたる行為として、以下のものが該当します。

  1. 被相続人の不動産を第三者に売却する行為
  2. 被相続人が貸していた金銭の返済を求める行為

ちなみに、被相続人の建物の損壊部分を修理する行為は法定単純承認が生じないと考えられています。保存行為(財産の現状を維持する行為のこと)であり、処分行為ではないとみなされます。

2.熟慮期間の経過

相続人が後述の熟慮期間内に、相続放棄や限定承認をするという考えを示さなかった場合も、法定単純承認が生じます。

3.相続財産の隠匿や消費など

相続人が相続放棄や限定承認の考えを示していても、相続財産の全部あるいは一部を隠したり(隠匿)、思うまま消費したりした場合、法定単純承認が生じます。

②限定承認は相続人全員で行うことが条件である

限定承認とは、積極財産の限度において消極財産を弁済するという条件の下で相続を承認することを言います。自分のために相続があったことを知った時から3カ月以内に、家庭裁判所に対する限定承認の申述によって行うことが必要です。

また、限定承認については、必ず相続人全員が共同して行わなければいけません。そのため、一部の相続人が法定単純承認や単純承認をすると、限定承認ができなくなります。ただし、一部の相続人が相続放棄をした場合は、残りの相続人全員で限定承認を行うことができます。

積極財産と消極財産の両方あるが、どちらが多いのかをすぐに確定することができない。そのような場合には、限定承認を検討した方が良いです。積極財産の限度で弁済すれば良いので、もし消極財産の方が多いと判明しても、不足分を自分の財産で弁済する必要がありません。更に、消極財産を弁済した後に積極財産が残れば、その積極財産を相続できることになります。

家庭裁判所で限定承認が受理されると、限定承認をした相続人(相続人が複数のときは申述の受理と同時に選任された相続財産管理人)が、相続財産の清算手続きを行います。

③相続放棄は相続の全面拒否である

相続放棄とは、相続人が被相続人の相続財産の相続を全面的に拒否する行為です。自分のために相続があったことを知った時から3カ月以内に、家庭裁判所に対する相続放棄の申述によって行うことが必要です。

家庭裁判所で相続放棄の申述を受理されると、申述をした相続人はその相続に関して最初から相続人でなかったものと扱われます。

なお、相続放棄については、限定承認とは異なり、1人で行うことができます。一部の相続人に法定単純承認が生じた場合や、単純承認をした相続人がいる場合でも、相続放棄をすることは可能です。

相続人が相続放棄を行うと、他の相続人の法定相続分が変動することがある

相続放棄によって相続人の資格を新たに取得する血族が生じる場合もあります。

たとえば、夫が死亡して、相続人として妻と子1人がいたとした場合、妻の法定相続分は2分の1、子1人の法定相続分は2分の1です。しかし、子が相続放棄をした場合、他に相続人がいなければ妻がすべての相続財産を相続します。もし、夫の両親がいたとすれば、妻の法定相続分が4分の3、父母がそれぞれ8分の1を相続します。

このように相続放棄は他の相続人への影響が大きい行為と言えます。

限定承認や相続放棄をする場合、「熟慮期間の経過前に」「家庭裁判所に申述」する必要がある

相続人が、これまで述べた単純承認、限定承認、相続放棄のどれかを選択することができるのは、被相続人が死亡して相続が開始した後です。相続開始前にこれらの行為をすることはできません

そして、どの行為をするのかを考える期間として、民法では、自分のために相続があったことを知った時から3カ月以内という制限を設けています。この期間制限は熟慮期間と呼ばれています。ここで「自分のために相続があったことを知った時」とは、被相続人の死亡により相続が開始することと、自分が相続人になることの両方を認識した時点を指します。

相続人がどの行為をするのかを示さずに熟慮期間を経過すると、単純承認をしたと扱われます(法定単純承認)。限定承認や相続放棄をする相続人は、熟慮期間の経過前に、家庭裁判所に申述をすることが求められます。

相続財産の調査などに時間がかかり、熟慮期間の経過前に限定承認や相続放棄をするための判断資料を得られない時は、必ず家庭裁判所に「期間の伸長の申立て」をしなければなりません。

単純承認・限定承認・相続放棄のまとめ

【単純承認】
・相続人は相続財産すべてを相続する
【限定承認】
・相続人は積極財産の範囲内で消極財産を弁済する
・相続人全員で熟慮期間の経過前に家庭裁判所に申述する必要あり
【相続放棄】
・相続人は相続財産のすべてを相続しない
・相続放棄をする者が慮期間の経過前に家庭裁判所に申述する必要あり
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