法律で定められている主な遺言事項とは
遺言は、遺言者が生きている間に、自分の死後の財産処分に関する意向を明確にするための手段です。
そして、遺言者が遺言書を作成することで、他人の置かれている地位を一方的に変動させることができます。たとえば、遺言による未成年の婚外子(非嫡出子)の認知は、認知を受ける相手方(未成年の婚外子の側)の意向に関係なく、遺言者である父親と相手方との間に強制的に親子関係を発生させる効力があります。これにより未成年の婚外子は、死亡した父親の財産を相続する権利を取得することができます。
このように、他人の地位を強制的に変動させれば、相手方が利益を得たり不利益を被ったりするなどの影響は計り知れません。そこで、民法の定めでは、法的な効力が付与される遺言の内容をある程度限定しています。そして、その限定されたものを遺言事項と呼んでいます。
遺言事項については、まず、
- 法律によって遺言でのみすることが許される事柄に関する事項
- 遺言者の生前に他の方法で行うことができる事柄を遺言でする事項
の2つに大きく分類されます。また、以下のように分類することもできます。
①相続に関する事柄
民法で定められている相続に関する事柄を修正(変更)する事項が挙げられます。主な事項は以下の通りです。
- 相続人の廃除あるいは廃除の取り消し
- 相続分の指定(指定相続分)あるいはその委託
- 遺産分割方法の指定(相続させる旨の遺言)あるいはその委託
- 特別受益者の相続分(持ち戻し免除の意思表示)
②相続以外の財産処分に関する事柄
遺言者が自分の死亡した時の財産処分について、相続以外の方法を望む場合があります。この場合、遺言者の中で明確にその考えを示しておく必要があります。主な事項は以下の通りです。
- 遺贈(遺贈は相続人以外の人に対してすることも可能です)
- 遺産に基づく一般財団法人の設立
- 遺産に関する信託の設定
③身分関係についての事柄
親子関係といった身分関係についての事柄は、相続や財産処分に関する事柄以上に、遺言者の意思を尊重することが求められます。以下のような事柄は、遺言書の中で、明確に示しておく必要があります。
- 婚外子(非嫡出子)に対する父親の認知
- 子が未成年の場合の未成年後見人や未成年後見監督人の指定
④遺言の執行に関する事柄
遺言内容の実現に向けた事柄として、以下のような事柄を遺言しておくことが認められています。
- 遺言執行者の指定あるいはその委託
- 遺言執行者の報酬や複数名の場合の任務執行等
法律上の形式に反する遺言の効力
遺言には普通方式と特別方式があります。遺言の種類に応じた方式に従うことで、遺言者が死亡した時にその遺言の効力が発生します。
しかし、遺言の種類に応じた方式に違反して作成された遺言については、当然に無効として扱われます。例えば、自筆証書遺言においてパソコンを使って全文を作成した場合には無効となります。
本人以外の者が遺言書を変更するとどうなる
遺言書の内容の一部について、追加・削除・訂正といった変更が必要になった場合、
- 遺言者本人が、
- 変更する場所を指し示し、
- その場所について変更したことを自書した上で署名し、
- 変更した場所に押印(遺言書に押印したものと同じ印鑑を使用します)
することで、遺言書の変更を行うことができます。遺言書の変更が必要になったら、以上の方式に従えばよく、全文を書き直す必要はありません。
もっとも、遺言書の変更について遺言者の署名押印が求められているのは、遺言者自身による変更であることを明確にする目的があります。変更の権限を持たない他人による遺言書の内容の変更(改ざん)は許されません。
遺言者でない他人が遺言書の内容を変更した場合は、遺言書の変更の方式に違反したことになります。しかし、他人が変更したことによって、直ちに遺言全体が無効になるわけではありません。原則として、他人が変更をした部分のみが無効になり、依然として効力が認められます。ただし、他人による変更によって以下のようになると、遺言全体が無効になることもあります。
- 遺言自体の方式に違反する状態になった
- 元の文字を読むことが困難になった
署名押印についての問題
遺言書に署名が求められているのは、遺言者を特定するという目的があります。したがって、遺言者が特定される限り、厳格に戸籍上の氏名を記載しなければならないわけではなく、通称を用いて記載することも許されます。一方、署名をしていたとしても、遺言者と第三者とを混同されるような記載がなされているときは、有効な署名として認めることができません。
遺言書に押印が求められているのも、遺言者の特定という目的からです。署名の他にも押印も要求することで、遺言者として再認識してもらう目的もあります。
押印の際には使用すべき印章については、とくに法律上の制限はありません。必ずしも実印によらなければならないわけではなく、認印や指印による押印も法律上は認められます。しかしながら、できる限り実印を使用したほうが無難でしょう。特に公正証書遺言に遺言者が押印する印鑑については、実印を使用することを要求されるのが一般的です。