遺産分割と遺産分割の方法
故人(被相続人)の相続財産を相続人に配分する手続きを指します。遺産分割においては、相続財産の全部だけではなく、その一部だけを分割することも可能です。
相続開始後、相続人が複数人いる場合、故人が持っていた個々の相続財産は誰に配分されるのかが未定の状態です。この点、すべての相続人が、それぞれの相続分の割合で個々の相続財産を共有していると扱われます。しかし、この取扱いは暫定的なものにすぎず、個々の相続財産の配分先を決定する必要があります。
遺産分割を行う際の民法上の留意事項
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- 遺言による指定相続分
- 遺産分割で最も尊重され優先される
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- 法定相続分
- 遺言による指定相続分や遺産分割方法の指定がない場合に備えて定めている
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- 遺産分割協議における相続人全員の合意
- 法定相続分と異なる相続財産の配分を行うことができる
- 遺言による指定相続分と異なる配分を行うことができる
相続財産の確定
遺産分割に先立ち、遺産分割の対象になる故人の相続財産を確定する作業が必要です。
- 不動産は、名寄せ台帳(固定資産課税台帳)の閲覧謄写。
- 預金や証券は、思い当たる銀行や証券会社に赴き相続人として開示請求。
このような調査で確定作業を進めます。
相続財産かどうかが確定していない財産は、遺産分割をすることができないため、それらの帰属について調査が必要です。ある財産が相続財産であるかどうかが争われると、遺産確認の訴えなどの訴訟手続きによって確定せざるを得なくなります。
遺産分割の種類
遺産分割については、以下の3種類に分類されます。
- 被相続人による遺産分割方法の指定(指定分割)
- 遺産分割協議による分割(協議分割)
- 家庭裁判所の審判に基づく分割(審判分割)</l i>
1.被相続人による遺産分割方法の指定
被相続人は、遺言によって個々の相続財産の分割方法を指定することができます。これを遺産分割方法の指定といいます。
この場合、指定の対象になった相続財産が、遺産分割協議を経ずに指定された相続人に帰属します。
例えば、父が3000万円分の相続財産を遺して死亡し、相続人として子A・Bだけがいるとします。このとき、父の遺言書に「相続財産のうち1000万円のX土地を子Aに与える」とあった場合、遺言が有効である限り、X土地が子Aに帰属するこが確定し、残った2000万円分の相続財産をAB間で遺産分割協議をして配分します。
2.遺産分割協議による分割
遺言によって遺産分割方法の指定がなされていない場合は、相続人全員の話し合いによって遺産分割を行います。この話し合いのことを遺産分割協議といいます。遺産分割協議については、一般にそれぞれの相続人の法定相続分に基づいて行われます。特別受益や寄与分があるときは、これを考慮した具体的相続分に基づきます。
3.家庭裁判所の審判に基づく分割
以下のような場合、家庭裁判所の審判に基づいて相続財産の配分を行います。
- 遺産分割協議において合意に達しない場合
- 相続人が集まらず遺産分割協議ができない場合
もっとも、一般的には、審判前に調停手続きが先に行われます。調停が不調に終わった場合に、審判手続きに移行することになります。審判に基づく分割は、下記の「現物分割」を基本として、それぞれの相続人の実情にあった分割方法による配分が行われます。
分割方法
- 現物分割
- 個別の相続財産をそのままの形で配分する方法
- 例:相続財産である土地を相続人Aに帰属させ、建物を相続人Bに帰属させるなど
- 共有分割
- 一つの物の所有権を分け合う形式で配分する方法
- 例:相続財産である土地を複数の相続人が共同して所有する
- 換価分割
- 相続財産を売却して得た金銭を、それぞれの相続人の相続分に応じて配分する方法
- 代償分割
- 相続分(原則的には法定相続分)を超える相続財産を取得した相続人が、その代わりとして差額の金銭(代償金)を他の相続人に渡すという配分方法
- 利用権(用益権)の設定
- 相続財産である土地を相続人Aに配分した上で、他の相続人Bにその土地の借地権を設定するような配分方法
遺産分割が禁止される場合もある
遺言や遺産分割協議によって「一定の期間」を定めて遺産分割を禁止することができます。
ただし、被相続人の遺言や遺産分割協議による遺産分割の禁止は、原則として5年を超える期間を定めることができません。
一方、家庭裁判所の審判手続きによる場合は5年を超える期間を定めることが可能です。
遺産分割前に処分された財産の取扱い
一部の相続人が、遺産分割前に相続財産を第三者に売却することがあります。この状況を放置すると、遺産分割の場面で他の相続人が不利益を被るおそれがあります。
2018年の相続法改正により、「遺産分割前に相続財産を処分(売却など)した相続人以外の」相続人全員が同意した場合、遺産分割前に処分(売却など)された財産が遺産分割時に存在するとみなすことが可能になりました。
この場合、遺産分割の時点で処分されていた財産の価額も含めて遺産分割を行い、処分した相続人は処分した財産に相当する金銭(代償金)を支払います。