相続税申告実績のうち土地・家屋の割合
国税庁の報道用資料(令和4年分 相続税の申告事績の概要)によると、令和4年の相続申告分のうち「土地・家屋」が占める割合は全体の約4割になっていることがわかります。
この土地・家屋などの不動産は現預金や有価証券に比べて換金性が低いため、相続で分け方が難しい資産の一つです。
配偶者や子供の誰かが故人と同居していた場合や立地・築年数など家の条件が良いケースは、早めに相続先が決まることが多いでしょう。しかし、相続人それぞれに持ち家があったり、条件面で親の家の売却・賃貸が難しかったりすると難航しやすくなります。
誰が家を相続するかが決まらない場合は、とりあえず共有のままにして遺産分割協議を終えるケースがほとんどです。もし、分割協議や所有者名義の変更(相続登記)が終わっていなければ、相続人が法定相続割合で共有しているとみなされます。
共有のデメリット
ただ、家を共有にしておくメリットはあまりありません。
管理、変更行為は、他の共有者の意向を踏まえる必要がある
最大の問題は共有する家について共有者の一人が単独でできることが少ない点です。
共有者ができる主な行為は「保存」「管理」「変更」の3つがあり、このうち自分の判断だけですることが可能なのは保存行為に限られます。保存行為とは、家の現状を維持するための行動で、簡単な修繕や不法占拠者に立ち退きを請求することが代表的な例です。
管理、変更行為は、他の共有者の意向を踏まえる必要があります。家を売却したり、建て替えたりするなら共有者全員の合意を得なければならず、手間や時間がかかりやすくなります。相続人の間で意見が対立すれば、関係悪化につながりかねません。
管理・維持費の負担割合をどうするか
共有する家の管理・維持費の負担割合をどうするかも問題です。
空き家になっていても壁や塀などの修繕費、掃除など定期的な手入れのための水道光熱費、不審火に備える火災保険料といった費用はかかるのが一般的です。
固定資産税も毎年発生します。費用の分担を巡ってもめるケースも少なくありません。
世代交代による分割協議の不成立リスク
さらに問題を複雑にするのが、親の家を共有状態にしたまま子どもが死亡し、孫に代が替わり、つまり代襲相続が発生するときです。
当事者意識が薄くなることなどから分割協議がまとまりにくくなり、さらに世代交代が進むと相続人の範囲が広がります。相続登記をするには遺産分割協議で相続人全員の合意が必要ですが、ハードルはさらに高くなります。
トラブル回避のためにも共有を避ける
このような事態にならないために、遺産分割のやり方を工夫し不動産の共有を避けることが大切になります。
①換価分割
方法としては、まず換価分割があります。不動産を売却した代金を持分に応じて分けるやり方で、親の家に市場価値がある場合に有効です。
ただ売却価格や売却時期を巡って共有者の考え方が分かれ、売り時を逃す可能性もあります。このため「共有者の代表者を決め、判断を一任すること」は複雑な問題を解決するための方法の一つです。できれば、文書の形で一任することを記録に残しておくことが望ましいでしょう。
買い手が見つかるまで時間がかかることも想定し、売却までの固定資産税や管理・維持費の負担割合を決めておく必要もあるでしょう。
②代償分割
選択肢としては代償分割という方法もあります。相続人の一人が親の家を引き継ぎ、他の相続人に代償金として自分の資産からお金を支払います。遺産分割協議がまとまりやすい方法と言えます。
しかし、引き継ぎ人には一定の資金が必要になります。この代償金の資金を確保するため親が生前に生命保険に加入し、保険金の受取人は家を相続する子を指定しておくことも一案になります。
③相対取引で隣近所に交渉する
親の家を市場で売却するのが難しい場合、隣近所に相対で直接交渉するのも方法です。場合によっては、「駐車場」や「子どもの住宅用」などとして買ってもらえる可能性もゼロではありません。
終活としての心がけ
もし、親の家をどう相続するかで揉める可能性が少しでもあるのであれば、早めに話し合っておくこと、又は代償金確保のために親に生命保険に加入しておいてもらうことなど、早めの行動が大切になります。