所有者不明土地問題と対策|終活1

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所有者不明土地問題と法改正の背景

所有者不明土地は誰が所有しているのかがわからない土地です。主に、相続の際に家や土地の名義変更されないまま長年の放置されることで発生します。

全国のうち所有者不明土地が占める割合は九州本島の大きさに匹敵するともいわれています。今後、高齢化の進展による死亡者数の増加等により、ますます深刻化するおそれがあり、その解決は喫緊の課題とされています。

このような背景から、2021年4月に「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました。 両法律は、所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」を図るために制度化されたものです。

実は、改正法の成立前から、国は、「長期間相続登記等がされていないことの通知」を発送しています。この「長期間相続登記等がされていないことの通知」は、国が30年以上相続登記がされていない土地の相続人を調査し、その法定相続人のうち任意の一部の方に相続登記を促す通知書です。国は、2018年から「長期相続登記等未了土地解消作業」というものを始めていて、2021年時点で約5万3000人の相続人を明らかにしたのです。

通知を受け取った人だけでなく、親の家が将来空き家になるのではないか心配な方は早めに対策を考えた方が良いかもしれません。所有者不明土地対策のための改正民法・不動産登記法などでは、早めに対策を打たないと相続人にとって不利になる内容が含まれています。

3年以内の相続登記義務

まず、法改正により、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されます。これに違反した場合、行政罰(刑罰ではありません)が適用される可能性があります。

  1. 相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない。
  2. 遺産分割成立により不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記をしなければならない
  3. 1. 2.のいずれについても、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の適用対象となる

10年以内の遺産分割協議の成立

2つ目は遺産分割協議に期間を設けることになった点です。

相続では被相続人が亡くなると、相続人の間で「誰が、どの財産を、どれだけ引き継ぐか」を決める必要があります。亡くなった人が遺言で分け方を指定していれば、原則として遺言の内容に沿って遺産を分けます。遺言がない場合は相続人が話し合う「遺産分割協議」で分け方を決めます。分ける際は民法で定めた「法定相続割合」が目安になります。法定相続で分けても構わないし、相続人全員が合意すれば法定相続分通りに分けなくても良いです。

改正前まで遺産分割協議には法律上の期限は設けられていませんでした。しかし、親の家が老朽化したり立地が不便だったりして子が住まず、売却や賃貸も難しい場合には、相続先が決まらないまま放置されることに繋がりかねません。そこで改正により、相続開始から10年を過ぎると原則として法定相続割合で分けるようになりました。つまり、相続人が希望しなくても法定相続分の土地を持たされる可能性があります。

不要な土地は国が引き取る可能性も|土地所有権の国庫帰属制度

3つ目は「土地所有権の国庫帰属制度」の新設です。相続人が不要と判断した土地を国が引き取る仕組みで、相続人は10年分の管理費を払います。売却や賃貸も困難な市場価値の乏しい不動産を抱える相続人のニーズは強いと見られています。

ただ引き取ってもらうには国の審査があります。対象となる土地は更地が条件であるため、建物があれば相続人の負担で解体する必要があります。このほか抵当権が設定されていない、境界争いがない、土壌汚染がないなどの条件を満たすことも求められます。

典型例とその対策

親の家を長く放置すると不利になりかねないことになります。どのような対策を立てておく必要があるのか。それにはまず、どんな場合に所有者不明土地になる可能性があるのかを理解する必要があります。

典型例
  • 親の家の市場価値が乏しい
  • 子が別居し、持ち家がある
  • 子が共有名義で相続しようと考えている
  • 子が親の介護や相続について関心が薄い
対策
  • 修繕など家の劣化を抑える工夫をする
  • 親の家を誰が相続するのかを早めに決める
  • 共有名義なら固定資産税などの負担割合を決める
  • 以上が相続後に済まない場合、売却・賃貸を検討
  • 土地所有権の国庫帰属制度も選択肢

共有名義で相続する場合は気を付けた方が良いです。共有名義者である子が亡くなると、孫が遺産分割協議をすることになり、孫の段階では協議がまとまらない例が多くなります。改正民法でも共有分割の方法である価額賠償の最高裁判例を明文化するなど対策を講じています。

親との話し合いと修繕による家の市場価値向上化

対策で重要なのは、まず親子で介護や相続について早めに話し合うことです。話し合いの中で特定の相続人が親と同居したり、近所に住んで面倒を見たりするなどして親の家の相続先が自然な流れで決まる可能性があります。

家の市場価値が低い場合でも修繕などで価値を高める機運が生まれてくることも期待できます。売却や賃貸の可能性を探る場合でも、不動産会社との交渉責任者を決めることも大切です。売却金額や売却時期について特定の相続人に一任しておけば、交渉もより円滑になりやすくなります。

やむを得ず共有する場合でも固定資産税などの負担割合を決めておくことが望ましいでしょう。そうでないと争族問題になりかねません。

もっとも、親が亡くなった後の遺産分割協議が難航する可能性がある場合、親の家を誰が相続するか決まらないうちに相続登記の期限が迫る可能性があります。その場合、今回の法改正で盛り込まれた相続人申告登記制度を利用されるとよいです。期限までに相続人の誰が、どれだけ相続するか決まらない場合に相続人の氏名、住所などを法務局に申し出る仕組みです。これを受けて法務局が登記をすれば、相続開始から3年が経過しても罰則の対象になりません。

誰も家を継がず、売却・賃貸も難しい場合、土地所有権の国庫帰属制度も選択肢になります。

遺産分割協議が長期化なら家裁利用も選択肢に

改正民法では遺産分割協議に期間が設定されることも影響は大きくなります。相続人同士が揉めて、遺産分割協議が長引く例が増えています。全国の家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件は過去20年間で1.5倍以上にもなっています。特に目立つのが、相続人の中に亡くなった人から生前に財産をもらった人がいたり、亡くなった人の介護を一手に担ったりした人がいる場合です。財産の分け方が不公平だとして対立し、話し合いを始めて10年が過ぎても折り合わないケースもあります。

分割協議が長引く大きな原因の一つに特別受益寄与分の存在があります。特別受益は住宅取得資金、結婚費用、大学の入学金などの生前贈与が代表的な例です。寄与分は亡くなった人の療養看護や介護などで多大な貢献をした場合に認められます。特別受益や寄与分を含めて分ければより公平になりますが、協議に時間がかかったり、対立が深刻になったりしかねません。

現実的には、まず特別受益があったかどうか、金額がいくらだったかを確認することが困難です。贈与した親はすでに亡くなり、子は贈与を受けたこと自体を認めない例が少なくないからです。寄与分は、介護などをした子は貢献分の金額を多めに見積もって主張する一方、他の相続人は受け入れを渋りがちです。

分割協議が長引くと、亡くなった人の家・土地は長年にわたって放置されやすくなります。そこで、今回の民法改正では遺産分割協議の期間を相続開始から10年間としました。10年を過ぎると原則として特別受益や寄与分を考慮せず、法定相続割合で分けるようにします。

ただし、法定相続割合による遺産分割が不公平になりかねないケースは少なくはないと思われます。その場合は家庭裁判所を利用することも一案です。今回の法改正でも相続開始から10年以内に家裁に申し立てれば、10年を経過しても、特別受益や寄与分を考慮した分割ができるからです。

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