相続時精算課税贈与に110万円の基礎控除が新設
これまで相続時精算課税贈与は節税効果が少ないものと考えられてきました。贈与のたびに申告が必要なので使い勝手も悪かったとも言えます。
しかしながら、2024年1月1日以降の贈与からこの制度による生前贈与にも、年110万円の基礎控除が認められることになり、利用検討の余地が広がりました。
生前贈与の2つの方法
生前贈与には大きく2つの方法があります。
- 1. 暦年課税方式による生前贈与
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- 贈与額に応じて毎年、申告・納税
- 贈与額に応じてそれぞれの税率が適用される(10%~55%)
- 相続財産への加算対象期間外の基礎控除(110万円)の範囲内の贈与であれば申告・納税の必要はない
- 相続税との税率の差を利用するなどして、毎年一定額を子や孫に贈与し、贈与者の死亡(相続発生)時の相続財産や相続税額を引き下げる手段として使われてきた
- 2024年1月1日以降の贈与から相続財産への加算対象期間が3年から7年に延長された
- 2. 相続時精算課税制度による生前贈与
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- 特別控除の累計2,500万円までは贈与時に贈与税を納めず、相続発生時に相続財産に贈与額を加算
- 贈与の累計額が特別控除を超えた場合、超えた部分に対して一律20%の贈与税が課税される
- 納めた贈与税は相続税額から差し引き、贈与税額が相続税額より多い場合には還付される
- 2024年1月1日以降の贈与から110万円の基礎控除が新設された
相続時精算課税贈与のメリット
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- 一括の贈与でも特別控除の2,500万円までは贈与時に贈与税がかからない
- 暦年課税贈与では子に2,500万円を一括で贈与すると、45%と高い贈与税率が課せられます。
- 特別控除を超える贈与への贈与税率が一律20%なので、贈与額によっては暦年課税贈与より低い税率で財産を移転できることがあります。
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- 価格上昇が見込まれる不動産や上場見込み株などの有価証券の贈与でも節税の効果が期待できる
- 贈与時の評価額で相続財産に加算するため、相続発生時より贈与時の評価額が下回っていれば、低い評価額によって財産を移転できます。
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- 相続時での紛争を防ぐ
- 生前にまとまった規模の財産を贈与して所有権を移転できるため、相続時での紛争を防ぐ効果もあります。
相続時精算課税贈与(旧)のデメリット
- 対象となるのは原則として60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子や孫への贈与のみ。
配偶者やおい、めい、友人などへの贈与では認められない - 少額の贈与であっても贈与のたびに期限内の税務署への申告書提出が必要だった
- 一度届け出れば撤回できず、途中で暦年課税贈与に戻すことはできない。
- 相続発生時には結局、贈与した財産を相続財産に加えて相続税を計算するため、財産の多い人にとっては、贈与税を納めてでも暦年課税贈与を活用する方が節税効果は大きかった。
両制度のデメリットの増減
こうしたデメリットや制約も多かった相続時精算課税贈与ですが、2023年度の税制改正で風向きが大きく変わりました。
まず、暦年課税贈与の基礎控除とは別に年110万円までの基礎控除が認められ、基礎控除を超える部分の贈与に対して累計2,500万円の特別控除が適用されることになりました。
また、基礎控除の範囲内の贈与であれば相続財産へ加算する必要はなく、申告書の提出も不要になりました。そのため、利用者の負担は大きく軽減されます。
さらに、暦年課税贈与では従来、相続時開始前3年分の贈与が相続財産に加算され、相続税の課税対象となっていましたが(生前贈与加算)、税制改正で2024年1月1日以降の贈与から7年分に拡大されました。
一方の相続時精算課税贈与では、基礎控除以下の額は相続開始前7年分の贈与であっても相続財産への加算の対象とはなりません。したがって、相続発生が近いと見込まれる場合には暦年課税贈与に比べて節税効果が大きくなります。
両方式の効果の比較
相続時精算課税贈与で年110万円の基礎控除が設けられた効果を、生前贈与加算が7年に延長された暦年贈与と比較してみましょう。
- 前提条件
- 相続財産: 1億円
- 推定相続人:子2人
まったく生前贈与を行わないケース
相続税負担は770万円になります。
相続時精算課税贈与で2人に年110万円ずつ相続発生まで10年間生前贈与した場合
相続税額が440万円となり、330万円減額(節税)できます。
暦年課税贈与で年110万円ずつ10年間生前贈与をした場合
生前贈与加算が7年となった影響で、相続税額の減額は129万円にとどまり、相続時精算課税贈与の方が節税効果は大きくなります。
年110万円を20年間、生前贈与した場合
相続時精算課税贈与では相続税額を630万円減額できますが、暦年課税贈与では459万円にとどまります。
節税対策としての使いどころ
相続時精算課税贈与は、相続財産が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)内に収まって相続税がかからない人には有利です。
仮に相続税率が10%かかる場合でも、生前贈与加算7年延長を踏まえれば有利となります。また、相続発生が近いと予想される人も、年110万円の贈与であれば、相続時精算課税が有利となります。
ただし、財産の状況や贈与の年数によっては、暦年課税贈与のほうが依然として有利なケースがあります。
財産が2億円で推定相続人が2人の場合、まったく生前贈与を行わないと相続税負担は3,300万円になります。2人に年600万円ずつ10年間、生前贈与する時、相続時精算課税贈与では相続税の減額は660万円の一方、暦年課税贈与では732万円の減額となります。
このように財産の状況や贈与の年数などによって相続時精算課税贈与と暦年課税贈与のどちらが有利かは変わります。したがって、事前に税理士に相談しシュミレーションしてもらうのがよいでしょう。