遺留分侵害請求と遺留分の放棄|遺言 8

遺留分侵害請求と遺留分の放棄|遺言 8

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遺留分侵害請求とは何か

利害関係者:
  • A: 遺留分を侵害された遺留分権利者
  • B: 遺留分を侵害したとされる者(被相続人から遺贈や贈与を受けた者)

上記のAはBに対し、遺留分の侵害に相当する金額の支払いを請求することができます。これを遺留分侵害請求といいます。

以前に遺留分減殺請求と呼ばれていた制度がありました。この制度でも遺留分侵害請求と同じく遺留分権利者の遺留分保護を目的としています。その内容は、遺留分侵害に相当する遺贈や贈与の対象となった財産自体の返還請求を認める制度でした。

しかし、2018年の相続法改正(2019年7月1日に施行予定)により、制度が変更されました。遺留分減殺請求の制度下では、返還請求が行われた財産についてAとBとの間で共有状態になる問題がありました。そこで、財産自体の返還請求を否定し、金銭の支払を求めることに変更したのです。

遺留分侵害請求の手続きの流れ

ここで、侵害額請求(A⇨B)の大掴みなフローは以下のようになります。

  1. 請求書の送付(内容証明郵便物が望ましい) ⇨ 協議と合意 ⇨ 精算
  2. 1.で解決しない場合: 家庭裁判所へ調停申立て
  3. 2.でも解決しない場合: 訴訟

遺留分侵害請求は遺贈から行使する

民法では、遺留分侵害請求について、被相続人による遺贈や贈与のうち、遺贈を受けた者から先に、遺留分侵害請求に応じなければならないと定めています。遺贈が複数ある場合は、遺贈の価額の割合に応じて、遺贈を受けた人が、遺留分侵害相当額の支払義務を負うことになります。

そして、遺贈を受けた者のみを対象に遺留分侵害請求権を行使しても、遺留分権利者の遺留分の保護に不十分であるときは、被相続人から贈与を受けた人も含めて、遺留分侵害請求を行い、遺留分侵害相当額の金銭の支払を請求します。

ただし、贈与を受けた人が複数ある場合は、相続開始時から近い時期に行われた新しい贈与(後の贈与)から順番に、遺留分の侵害が解消されるまで、古い贈与へとさかのぼる形で、遺留分侵害請求をしていくことになります。

遺留分侵害請求の行使順

請求の順序 対象が複数
遺贈 贈与より先に請求 (侵害額×遺贈価額の割合)を請求
生前の贈与 遺贈で解決しない場合請求 最新の贈与から順に過去に遡る方法で請求

相続開始から10年、侵害事実を知った時から1年の期間制限あり

なお、遺留分侵害請求をする場合は、期間制限に注意しなければなりません。

①遺留分権利者が、相続開始の事実に加えて、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったという事実も知った時
その後、1年間行使しない場合、時効により遺留分侵害請求権は消滅します。
②相続開始の時
その後、10年を経過したときは、事実を知らなくても遺留分侵害請求権は消滅します。

相続開始前の遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要

遺留分権利者は、遺留分の放棄をすることができます。遺留分の放棄は相続の放棄ではないので、相続人としての地位は失われません。ただし、遺留分を放棄する時期によって手続きが異なることに注意を要します。

まず、相続開始前に遺留分を放棄するためには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。相続開始前に相続を放棄することはできませんが、遺留分を放棄することは可能です。

しかし、事業承継する相続人などが遺留分権利者に遺留分の放棄をするよう圧力をかける恐れがあります。それゆえ、家庭裁判所の許可を条件とすることで、家庭裁判所にチェック機能を与えています。

これに対し、相続開始後に遺留分を放棄することは、遺留分権利者の自由ですから、家庭裁判所の許可なども不要です。

相続開始前の放棄 相続開始後の放棄
遺留分侵害請求権 家庭裁判所の許可を得れば可能 自由にできる
相続権 できない できる

遺留分権の行使についての相続法改正前後での違い

(状況)
  • 被相続人: 父
  • 法定相続人: 長男 / 次男
  • 相続開始時点の財産:事業用財産 6,000万円 のみ
  • 遺言書:父「長男に事業を承継させる」 ⇨ 次男の相続財産:0円
子の個別的遺留分:
6,000万円(遺留分算定の基礎財産)× 2分の1(相対的遺留分) × 2分の1(法定相続分) = 1,500万円
次男の遺留分の侵害額:
1,500万円 – 0円 = 1,500万円
【改正前】
事業用財産が長男と次男との共有状態になる⇨(現物返還)⇨長男の事業承継に障害
【2018年相続法改正後】
次男が長男に対して1,500万円の金銭債権を請求⇨現物返還が不要⇨長男は事業承継を円滑に進められる
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